赤道外暖水域応答実験 目次

議論と結論

水蒸気収支

A0 実験, A4 実験, A4N10 実験についての暖水域を置く領域(ボックス)についての 水収支を計算した. 暖水域は A4 実験の場合は赤道に中心を持つように , A4N10 実験の場合は北緯 10 度に中心を持つように南北に +- 10 度, 東西に +-20 度の領域に置いている.

西からの流入量はどのボックスについても負値である. すなわち西側からは水蒸気が 流出している. 西からの流出量が一番多いのは A0 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. また, 西からの流出量ば一番小さいのは A4 実験の赤道に中心をもつボックスについて である. 暖水域を赤道あるいは北緯 10 度に置といずれの場合も西からの流出は 減り, その流出の減りはとくに A4 実験の赤道に中心をもつボックスについて顕著 である.

東からの流入量はどのボックスについても正値である. すなわち東側からは水蒸気が 流入している. その流入量が一番多いのは A4 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. 流入量が一番少ないのは A4N10 実験の北緯 10 度に中心をもつボックスについて である. 暖水域を北緯 10 度に置くと東からの流入量は著しく減る. これは 赤道に暖水域を置いた場合その暖水域上での水蒸気輸送とはまったく正反対の 結果となっている.

南からの流入量は正値のものと負値のものがある. 南側からの水蒸気の流入出は 実験の設定によって敏感に反応する. 負値が一番大きいのは A4 実験の北緯 10 度 に中心をもつボックスについてである. 北緯 10 度に中心をもつボックスの南の端 は赤道(1.4度N)にあるので赤道に向かって水蒸気が輸送されている. この水蒸気が 輸送される方向には A4 実験の暖水域の極値が存在する. また南向き輸送の絶対値 がもっとも小さいのは A0 実験の北緯 10 度に中心をもつボックスについてである. 暖水域が存在しない場合この緯度(赤道)での水蒸気輸送は活発ではない. 南から の流入が最大となるのは A4N10 実験の北緯 10 度に中心をもつボックスについて である. 暖水域を北緯 10 度におくことによって暖水域をまったく置かない場合の 100 倍の水蒸気が南から流入してくる. この変化は劇的である.

北からの流入量は正値のものと負値のものがある. 北側からの水蒸気の流入出は 南からの流入出の場合と同様に実験の設定によって敏感に反応する. 北からの 流入量が一番多いのは A0 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. 暖水域を赤道におくと赤道に中心をもつボックスについての北からの水蒸気の 流入は抑制される. また暖水域がない場合の北緯 10 度に中心をもつボックスの 北からの水蒸気の流入は絶対値が一番弱くはあるが, 正値であったのが, 暖水域を 北緯 10 度に置くことによって負値となる変化があることがわかる.

全流入量はどの実験設定のどのボックスについても正値である. 全流入量が一番多いのは A4 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. 二番目に多いのは A4N10 実験の赤道に中心をもつボックスについてであって, 北緯 10 度に中心をもつボックスについてではない. 流入量が一番少ないもの は A0 実験の北緯 10 度に中心をもつボックスについてである. したがって, この北緯 10 度に中心をもつボックスの領域はもともと水蒸気が流入しにくい 場所なのかもしれない. しかし, A4N10 実験の北緯 10 度に中心をもつボックス についての水蒸気の流入は A0 実験の同場所のボックスの 10 倍となっている. これは A4 実験の赤道に中心をもつボックスについての A0 実験からの変化が 2 倍であったことを考慮すると十分に大きい変化と言える.

降水量が一番多いのは A4 実験の赤道に中心をもつ領域についてである. 次に多いのは A4N10 実験の北緯 10 度に中心をもつ領域についてである. 赤道に暖水域を置いた場合の赤道に中心をもつボックスの領域内の降水の変化は 暖水域がない場合と比べて 2 倍であったのに対し, 北緯 10 度に暖水域を置いた 場合の北緯 10 度に中心をもつボックス内の降水の変化は暖水域がない場合と くらべて 10 倍になっている.

蒸発量がもっとも多いのは A4N10 実験の北緯 10 度に中心を もつボックスについてである. 蒸発量がもっとも少ないのは A0 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. おのおのの領域について暖水域をどちらにおこうと水蒸気の蒸発は増える.

水蒸気量が一番多いのは A4 実験の赤道に中心をもつ領域についてである. 水蒸気量が一番少ないのは A0 実験の北緯 10 度に中心をもつ領域について である. 暖水域を置かない場合から暖水域を置いた場合の変化が最大な領域は 北緯 10 度に暖水域を置いた北緯 10 度に中心をもつ領域についてである. この水蒸気量の変化は暖水域がない場合の 10 %である.

全流入量と蒸発量との合計から降水量を引き算した量がもっとも大きいのは A4 実験の赤道に中心をもつボックスについてである. この値は A4 実験での 水蒸気収支にもっとも寄与の大きい降水量の 7.6 %である. この量は定常状態であるならば, ほとんど 0 であることが望ましい. 水蒸気の水平拡散と水蒸気輸送の半日よりも短いサンプリングによって得られる 擾乱の成分の寄与が他に考えられる(今回は調べていない).


表1(b)は A4 実験と A4N10 実験とによる A0 実験からの 暖水域直上の水蒸気収支の偏差成分について表している. 暖水域を赤道上に置くと流入量については西からの流入の偏差が もっとも増える. このとき南と北側からは流出する方向に偏差ができる. 北緯 10 度に暖水域を置くと南からの流入量と西からの流入量の 偏差がもっとも増える. 北側からと東側からは水蒸気の流出が 偏差として現れる. 全流入量を A4 実験と A4N10 実験の偏差について比べると A4 実験の 2/3 倍が A4N10 実験の偏差となっている. この A4 実験の偏差 2/3 倍が A4N10 実験の偏差のとなる量は 全流入量, 降水量, 蒸発量についてである. 水蒸気量の変化は全流入量, 降水量, 蒸発量, 水蒸気量の中で 唯一 A4N10 実験による偏差が A4 実験の偏差を上回る量である.

暖水域実験の偏差成分についての全流入量と蒸発量から降水量を引き算すると A4 実験の場合, その実験の水蒸気収支への寄与がもっとも大きい 降水量偏差の 9 %になっている. A4N10 実験の場合は降水量の 0.3 % である. この差がどこから来るものなのかについては調べていない.


単位(W)西から流入東から南から北から全流入量降水量蒸発量全流入量+蒸発量-降水量水蒸気量
A0 赤道-9.53e+149.54e+142.37e+142.66e+145.05e+141.16e+157.34e+148.14e+139.44e+20
A0 北10-7.92e+147.93e+14-8.95e+125.49e+134.66e+137.99e+148.41e+148.81e+138.29e+20
A4 赤道-2.63e+141.14e+152.28e+141.79e+141.28e+152.12e+159.99e+141.63e+141.01e+21
A4 北10-4.84e+147.72e+14-4.57e+139.33e+133.35e+141.34e+151.00e+15-2.94e+128.68e+20
A4N10 赤道-5.64e+141.02e+153.02e+14-1.63e+145.99e+141.36e+158.17e+145.78e+139.72e+20
A4N10 北10-4.47e+147.14e+143.18e+14-7.07e+135.14e+141.42e+151.01e+151.09e+149.13e+20
表 1(a). A0 実験, A4 実験, A4N10 実験による 赤道域(南緯 10 度から北緯 10 度, 東経 160 度から 200 度)あるいは 北10度(北緯 0 度から北緯 20 度, 東経 160 度から 200 度)についての 水蒸気収支. 単位 W. 赤が縦の欄の絶対値の最大値を, 青が是って値の最小値 を示している. 領域の面積は赤道域の場合, 9.46e+12 (m^2), 北緯 10 度域 の場合, 9.28e+12(m^2) である.
単位(W)西から流入東から南から北から全流入量降水量蒸発量全流入量+蒸発量-降水量水蒸気量
A4-A0 赤道6.66e+142.08e+14-1.11e+14-1.63e+146.00e+149.61e+142.73e+14-8.76e+136.82e+19
A4N10-A0 北103.40e+14-7.32e+133.61e+14-1.98e+144.30e+146.13e+141.81e+14-1.62e+128.15e+19
表 1(b). 暖水域直上の A4 実験と A4N10 実験の A0 実験からの水蒸気収支の偏差. A4 実験については南緯 10 度から北緯 10 度, 東経 160 度から 200 度までの 領域について, A4N10 実験については北緯 0 度から北緯 20 度, 東経 160 度から 200 度までの領域について. 単位 W.
赤道暖水域と赤道外暖水域との水蒸気輸送メカニズムの違い

比湿は赤道においてもっとも高い. 暖水域上にできる対流中心による熱源を 維持するための燃料は水蒸気である.

赤道上の対流中心にもっとも効率よく水蒸気を供給するには, 豊富な赤道上の水蒸気を対流中心方向へ輸送するのが良い. そのためには対流中心の東側からは東風を強化すること, また西側には西風を強化すべく循環構造を変化させる必要がある. 対流中心の東側の東風の強化は赤道上の気圧を下げることで 赤道βによる東風地衝流成分を強化することにより達成される. この東側の低圧偏差は下層の大気の摩擦収束に伴う水蒸気の 供給を促し, 不安定となり降水活動の活発化を促す. 一方西側の西風の強化は赤道上の気圧を上げることでやはり 赤道βによる西風地衝流成分を強化することにより達成される. しかし, もともと東風である赤道上のこのような西風偏差は 赤道上のもともとの西向き水蒸気輸送経路を切断させる結果となる. したがって, 西側から対流中心へ水蒸気を供給するには 西側の大気を安定化して降水活動を停止して対流中心への 多量な水蒸気燃料の供給の義務を全うする.

また赤道外(北緯 10 度に中心をもつ)の対流中心へ水蒸気を 供給するには赤道域からその対流中心へ向かって水蒸気を輸送する のが良い. そのために対流中心の北に傾斜の急な低気圧を つくりその低気圧性循環に伴う南風の地衝流と スベルドラップ・トランスポートにによる南風により水蒸気を供給する.