%表題 2001年地球惑星科学関連合同大会予稿 % %履歴 2000/02/28 杉山耕一朗 % 1. はじめに 木星型惑星の大気対流シミュレーションを行うためには, 大気の断熱温度減率 と凝結物質の鉛直分布とを把握することが重要である. 過去の木星型惑星大気 の断熱温度減率と凝結物質の鉛直分布を計算した例として Atreya and Romani (1985) がある. 彼らはエントロピー S の保存式を, 理想気体の状態方程式と潜 熱・反応熱を用いて温度・圧力・組成の関数として定式化した. この定式化で は空気塊において生じうる全ての化学反応を知る必要がある. しかし木星型惑 星大気における化学反応の全容は明らかになっていない. 組成の違う大気を考 える場合には, 生じうる化学反応が変わるので, 数値コードを書き換える必要 がある. そもそも平衡状態を仮定しているので, 化学反応に関する情報がなく とも断熱温度減率と凝結物質の鉛直分布は計算できるはずである. そこで本研究では大気中で生じる反応式を考えずに済み, さらに大気組成を簡 単に変更することのできる熱力学計算手法を検討する. そしてその手法を用い て大気の断熱温度減率と凝縮物質の鉛直分布を計算する. 2. 計算手法 (1)大気の平衡状態の記述: 熱力学変数として温度・圧力・物質存在量を選択 する. このとき大気の状態を与える適切な熱力学関数はエントロピー S では なくギブス自由エネルギー G である. 大気の平衡状態は, ギブス自由エネル ギー G が最小化された状態であるとする. 温度・圧力を与えると, G は化学 ポテンシャルと物質存在量の積の全物質に関する総和として表現される. ギブ ス自由エネルギーG の最小値は元素組成を固定した条件下において, 各化学種 の存在量を逐次近似的に最適化させることによって求めることができる. 大 気の状態を G によって記述したので, 潜熱・反応熱の代わりに化学ポテンシャ ルのリストを与えればよい. 化学ポテンシャルは既存の物性データから求める ことができる. (2)大気の断熱変化の記述: 大気の断熱変化はエントロピー S の保存として記述 することができる. S はギブス自由エネルギー G を温度に関して偏微分したものとして 与えられる. 温度・圧力空間で dS = 0 の曲線の通る軌跡を順にたどれば, 断熱温度減率と凝結物質の存在量を求めることができる. 3. 計算結果 大気成分気体やその凝結成分を理想気体, 理想溶液の法則に従うと仮定し, 上記の計算手法に則って木星大気における凝結物質の鉛直分布を計算し た. 大気組成はボイジャーの観測結果から予想されるものとした. 本計算から 得られた凝結物質の種類と各凝結物質量が最大となる圧力面高度は, Atreya and Romani (1985) の結果に整合的である. したがって本研究によって開発され た計算手法を用いることによって, 他の木星型惑星に対しても妥当な断熱温度 減率と凝結物質の鉛直分布が得られると期待される. 4. 参考文献 Atreya, S.K., Romani, P.N., 1985: In: Hunt. G.E. (Ed.), Planetary Meteorology. Cambridge University Press, pp. 17--68.